某日、私の相棒とも呼べる洗濯機が最後の時を迎えようとしています。
ここで延命措置を取るべきか、それとも新しい洗濯機を購入すべきか…私はとても迷っています。
というのも私と相棒である洗濯機は大手家電量販店で運命的な出会いをして即決、もう10年以上も昔の事になります。
洗濯機とは家電であり物、それは分かっている。でも10年以上も連れ添った洗濯機とはもはや家電を通り越して相棒と呼んでも過言ではない。
スイッチを入れればいつだってパワフルな回転で激しく汚れたパンツや厳しい香りの靴下を完璧に洗い上げる、ちょっとパンパンにつっこんだって文句を言わずに仕事をこなす。
そんな私の横柄な使い方にも耐えてきた相棒の洗濯機、君はいつだって私の汚れを落としてくれていたんだよね。
もっと早く君の体の異変に気付くべきだった…
2004年生まれの洗濯機とオッサンになった俺
そっか、そういえば君は2004年生まれだったんだ。今が2019年だから君は製造されてから16年も経っているのか。
そういえばアメリカで起きた同時多発テロ「9.11」の後に君を家電量販店で見つけて購入したんだったよね。
あの時の世の中って今ほど庶民の生活は苦しくなかったよね。
確か小泉竹中構造改革だっけ、庶民の生活の転換期ってあの辺だったと思うよ。それでも世の中はまだ安物がありふれている社会じゃなかったと思う。
たしか君ってけっこうな価格だったと覚えているよ、だって君はHITACHIだろ?今じゃハイアールなんて名前の洗濯機が2万円以下でハバを聞かせる世の中になってるんだぜ、信じられないだろ。
でもこれが現実なんだ、僕は長く使うものだから高くてもイイヤツを…と考えているけど今の社会は少し価値観が変わってしまったのかもしれないね。
僕と君が出会った時、僕はまだ30代前半だった。それがいまじゃ40半ばのオッサンさ。お互い歳はとりたくないもんだねぇ
当時最先端だった洗濯機の15年後
君って当時は凄かったよね、一回も使ったことがないけど「カビブロック」とかあったし毛布も洗える、洗剤も柔軟剤もバッチリな場所、もちろん乾燥だってお手の物だ。
お風呂のお湯とり機能がデフォルトで付いているなんて当時は羨ましがられる自慢の機能だったのを覚えているかい?
ごめん、よく考えてみたら君の風呂のお湯とり部は一回も洗ったことなかったや…
それなのに君は僕の服やパンツを洗ってくれていたんだよね、おかげで風呂のお湯とり部の隙間に僕のおぞましい物体らしきものが詰まっているじゃないか…
「異音」といった悲鳴で僕に知らせてた洗濯機
君が調子悪くなり始めたのって2018年の秋ぐらいからだったよね。
洗っている時に君がグオングオン言いはじめたり途中で止まってエラー表示とか出しちゃったりしてたのを覚えているよ。
今になって思えばあの時君は僕に知らせていたんだよね「そろそろお別れだよ」って。
君のドラムっていつもキレイだから僕は気が付かないことが沢山あった。
あれは確か3年ぐらい前だったかな、気が付いたら小さなゴミを取るヤツが二つとも無くなっていたよ。
それでも無視して僕は君を使い続けたんだ。
だって君のドラムはいつだって美しいから。
ここに有るべきゴミ取りネットがないって事は君が吸いこんでしまっていたんだね、それでも君は洗濯物をキレイに洗ってくれてたんだ、僕にゴミの存在を分からないように自分のお腹に溜めこむといった形で…
少し言い訳をさせてくれないか?
君のドラムはいつも美しすぎるんだよ、それに見とれた僕は君の苦しさや老いが目に入らなかったんだ。
ごめん、自分勝手な男だよね。そんな僕に15年も寄り添ってくれた君は…ダメだ、まだ逝かないで欲しい。
僕を独りにしないでくれ!
あぁ…
真ん中のネジの周りにヒビが入ってるじゃないか…
ここって君の一番大切な部分なんだろ…なんで今まで隠していたんだ!辛いなら辛いとはっきり言わないと僕だって分からないよ!俺たちはそーゆー仲だったんやないのか!
…そっか、そうだよね。
君は異音で僕に知らせていたんだっけ、それに気が付かなかった僕が悪いんだ、全部僕のせいだ。
それなのに君はけなげに僕の汚いパンツと臭い靴下を…僕はなんて事をしてしまったのだろうか、こんなにも恋しているというのに。
それに気が付くのが遅すぎたんだよね…
白い約束
君は僕と家電量販店で出会ったあの日、僕にひとつの約束をしたのを覚えているかい?
あの約束を君は15年間ずっと守ってきた…と僕は今になって噛みしめてるよ。
君は僕の恥ずかしいシミがついた服でも必ず綺麗に仕上げてくれた。
覚えているかい?僕がスニーカーを放りこんだ時のことを。
あの時は僕もどうかしていたとは思うけど君だったどうかしていたよ、だってスニーカーも約束したとおりにキレイにしてしまったのだから。
君は僕との「白い約束」を15年間も守り続けてきたんだ。でもその約束もそろそろ出来そうにない事ぐらい鈍感な僕にだって分かるよ。
悲しいけど、まだ逝って欲しくはないけど…僕も色々と決断しなければならない。
そういえば君にはシャワー浸透洗浄「白い約束」全自動洗濯機 NW-80Cと名乗る子供がいると最近知ったよ。
まだその時ではないけど、君が逝ったらNW-80Cに会いに行ってみようかと思ってる。ダメ…かな?ダメじゃないよね、君ならきっとNW-80Cに会いに行くことを許してくれると思ってる。
僕と君との白い約束…僕は君との約束のおかげで幸せな洗濯生活を送らせてもらった。とても感謝しているよ。
君のことは一生忘れないさ、だって僕たちは白い約束で結ばれた仲なのだから。
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